前回記事では、高齢者の健康的な体重とBMIについてご紹介しました。
今回は高齢者に限らず、各年齢層に最適な運動方法はあるのか?という疑問について考えてみたいと思います。
現代では、年齢に応じたフィットネス・ルーティンで健康効果を最大限に高めることが重要となっています。
私たちは身体活動によって心身の健康を改善することができ、定期的な身体活動は心理療法や薬物療法と同等の効果があることが証明されています。
当然ながら、体力のある10代、20代の人と、体脂肪がつき始めた40代の人が同じ運動をした場合、その結果は異なります。
年齢に応じたフィットネス・ルーティンがもたらすメリットはたくさんあります。
定期的に運動している6~12歳の子供には精神機能の向上が見られ、定期的に運動している大人には不安やうつの症状が軽減されることがあります。
また、定期的な身体活動は、高齢者の思考力、学習力、判断力を向上させることが証明されています。
さらに、全体的な筋力と心血管系の健康を向上させることができます。
身体的な健康効果を最大限に高めるためには、目標を設定し、現実的な期待を持つことが重要です。.
フィットネスレベルは人それぞれであるため、「一律に解決する」アプローチがあってはならないのです。
また、運動計画がその人に適しているかどうかを確認するために、医学的な助言を得ることも有用です。
身体活動に関しては、自分の年齢に合った推奨レベルを目指し、自分の能力に合わせて活動するようにしましょう。
年齢に応じたフィットネス・ルーティンで健康効果を最大化する
当記事は、Dr. Julie Broderick, Assistant Professor, Discipline of Physiotherapy, Trinity College Dublin, the University of Dublin(ダブリン大学トリニティカレッジ理学療法学科助教授 Julie Broderick博士)の研究(1)、及びアラバマ大学運動学科、サンフォード大学キネシオロジー学部のメタ分析(2)をベースに執筆しています。
出典:
(1)Let’s Get Active Guidelines
(2)Comparison of Periodized and Non-Periodized Resistance Training on Maximal Strength: A Meta-Analysis
幼少期から10代まで
幼少期の運動は、体重のコントロール、健康な骨の形成、自信と健康的な睡眠パターンの促進に最適です。
1日に最低1時間の運動が必要です、特定の運動にこだわる必要はなく、さまざまなスポーツに挑戦した方が脳が発達しやすいです。
具体的には
- 3~5歳の子ども:一日中活動する必要がある。
- 6~17歳の子ども:毎日60分の中等度から強度の運動が必要。
ウォーキングやランニングなど、心臓の鼓動が早くなるような運動をたくさんするなど、強度の高い運動を週3日以上行う。筋力トレーニングは週3日以上、さらに骨を強くするためにジャンプやランニングを週3日以上行う必要がある。
できれば、身体能力と脳の進化をさらに加速させるために、チームスポーツに参加することをおすすめします。チームスポーツが苦手な方は、水泳や陸上競技が体力維持に最適です。
ちなみに、ここでいう適度な運動とは、座っている状態を0点、最高レベルの活動を10点としたとき、5~6点のことを指します。
20代
20代半ばは体力が最も充実し、反応速度が最も速く、VO2max(筋肉に酸素を送り込む能力)が最も高い時期です。
このピークを過ぎると、VO2maxは毎年1%ずつ減少し、反応速度も年々遅くなっていきます。
したがって、この時期に強い筋肉と骨密度を身につけることを優先させることが大切です。
この2つをしっかり整えておけば、年齢を重ねても高い体力を維持することができます。
具体的には、筋トレだけでなく、ジャンプ運動など骨に刺激を与える運動もおすすめです。
例えば
- 毎週75分(1時間15分)の高強度の有酸素運動(ジョギングやランニングなど)。
- 主要な筋肉群(脚、腰、背中、腹部、胸、肩、腕)の筋力トレーニングを週2日以上行う。
といった感じとなります。
すでに定期的に運動している方は、トレーニングに「ピリオダイゼーション」(2)を取り入れるのも良い選択です。
これは、トレーニングの強度や量、運動の種類を細かく変化させる手法です。
30代
30代は仕事や家庭が忙しい人が多いので、体の衰えを遅らせるためにも、心肺機能や体力の維持は最優先事項です。
座りっぱなしの仕事をしている人は、階段で別の階のトイレに行く、立ち上がって電話を受けるなどして、良い姿勢を保ち、長時間の座り仕事をなくすように心がけましょう。
理想的には、30分に1回は必ず体を動かすことです。
具体的には以下のようなものがあります。
- サーキットトレーニング(有酸素運動と筋力トレーニング)を1回1時間、週4回行う。
- 週に1回以上、45~60分の高強度の有酸素運動を行う。
- 週に1回は必ず休みを取る。
といった感じとなります。
なお、30代は時間がないケースが多いので、HIIT(High Intensity Interval Training:高強度インターバルトレーニング)を導入して運動時間の短縮を図るとよいでしょう。
HIITはどんな運動でもいいのですが、心肺機能を高めるという観点からは、バーピージャンプなど脚の運動をメインにするのがおすすめです。
また、女性は骨盤底筋が緩みやすいので、ケーゲル体操を毎日行うとよいでしょう。
参考:バーピージャンプ
参考:ケーゲル体操(4分~)
40代
ほとんどの人は40代で太り始め、また、10年ごとに筋肉量が3~8%減少します。
この問題に対抗するには、筋肉量を増やし、消費カロリーを最適化するしかありません。
先行研究によると、およそ10週間の筋力トレーニングで筋肉が1.4kg増え、安静時代謝率が7%上昇し、脂肪が1.8kg減少することが分かっており、カロリー消費量の減少という問題に最も適した方法であると言えます。
とにかく、40代になればなるほど、筋トレは最優先事項だと心得ておいてください。
通常の筋トレに加え、ダンベル等を使うこともカロリーの最適化につながります。ジムなどを利用してエクササイズを体験して、その効果を実感してみてはいかがでしょうか。
- 週3日、1回1時間の筋力トレーニング(分割すると4日で30分)。
- 週5日、45分の有酸素運動(20代、30代より回数は多いが、サイクリングや水泳など関節への負担が少ないもの)。
- 座るより立つ、エレベーターより階段を使うなど、日常動作のフィットネスレベルをさらに上げる。
- 週に1日は必ず休みを取る。
といった具合になります。
また、40代になると腰痛がぐっと増えるので、ヨガなど体幹を鍛える運動もおすすめです。
50代
50代になると、2型糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患のリスクが飛躍的に高まります。
特に閉経後の女性は、エストロゲンが減少し、心臓病のリスクが高まります。
この問題を解決するには、筋力トレーニングも有効で、筋肉量を維持するために少なくとも週に2回行う必要があります。
同時に、筋肉や骨の減少も防ぐために、早歩きやジャンプ運動など、全身で体重を感じられる運動を増やすとよいでしょう。
- 有酸素運動を週4~6回、1回20~40分行う。
- 筋力トレーニングは週2日、1回30分、簡単な質問には答えられるが、会話はできない程度の強度で行う。
- 筋力トレーニングは、全身の筋肉を鍛える運動を8~12セット、または軽いウェイトを使って15~20セットできるレベルでよい。
- 終了後は必ずストレッチをする。
この年代からはリラックスすることも大切になってきますので、ヨガなどの心身を鍛える運動も増やしてください。
60代
60代になると、慢性疾患のリスクがさらに高まり、がんの発症率も大幅にアップします。
ここで重要なのは、「日常的な運動」(NEAT)を増やすことです。
掃除、洗濯、通勤など普段の行動の負荷を高めることで、乳がん、大腸がん、子宮がんのほか、心臓病や2型糖尿病のリスクも減らすことができます。
また、心臓病や2型糖尿病の発症リスクも下げることができます。
- スロージョギングなどの有酸素運動を週3日、疲れない程度に行う。
- 軽いウェイトを使った筋力トレーニングを週3日行う。
- ゆっくりとした動きをコントロールし、ゆっくりとした持続的な筋トレを行う。
- 毎日なるべく歩き、バランス運動も毎日行う。
60代になると、関節炎や膝の痛み、脊柱管狭窄症などが増えてきますので、できるだけ軽いウェイトでの筋トレを行うとよいでしょう。
また、60代も50代と同じように「毎日を楽しむ」という姿勢がとても大切ですので、地域の活動やランニングクラブなど、仲間と一緒に取り組める運動プログラムに参加するとよいでしょう。
これに加えて、週に2回は筋力トレーニングや柔軟体操を行いましょう。筋トレが苦手な方は、アクアエアロビクスなど水の抵抗を利用して筋力をつけるのも効果的です。
70代
70代以降は、転倒予防と認知機能の向上が最も重要なテーマです。
この年代は筋力の低下が激しいので、体調が悪くてもなるべく体を動かすようにしましょう。
一度運動をやめてしまうと、体力・気力がどんどん低下し、以前の状態に戻すことは難しくなります。
具体的な運動としては
友人と散歩をしたり、友人と筋トレをしたり、是非とも親しい友人と運動してください。
人間のやる気には友達が何よりも大切ですから、まずは人間関係の維持を優先させるとよいでしょう。
70代では、運動、特にストレッチとバランス運動が最優先です。ここで両方運動しないと、80代になる頃には関節の柔軟性が失われてしまいます。
まとめ
年齢に応じた身体活動を行うことは、心身の健康全般を最大化するために重要です。
子どもの思考力や認知力の向上、自尊心の向上、成人の不安や抑うつ状態の軽減、睡眠の質の向上、心血管系の健康増進などの効果が期待できます。
年齢層によって身体活動のガイドラインや目標が異なるため、誰にでも適したものがあります。
現実的な期待値を設定し、必要に応じて医師の診断を受け、自分の年齢と能力に合った身体活動を行いましょう。
運動をする際は腰や手首を痛めないために、ヨガマットやプッシュアップバーの利用がおすすめです。